主催者インタビュー

Screening Producer
Special Interview

「誰もが安心して認知症になれるまち」
を目指して

井上 俊(東京都町田市)
ファーマライフ株式会社 おれんじ薬局代表

「誰もが安心して認知症になれるまち」を目指し、認知症当事者が安心して暮らすためのまちづくりに取り組む町田市。地域の薬局で認知症カフェの運営に携わり、2024年4月30日(火)には2回目の『オレンジ・ランプ』上映会を主催された井上さんに、町田での活動の軌跡を伺いました。

※特別インタビューPDF版はこちらからご覧いただけます。

認知症に対する不安を軽減し、当事者に勇気と希望を与える機会になります

上映会を開催しようと思われた理由を教えてください。

認知症をより広く知ってもらうため、2024年2月に「Dサミット」で上映会を開催しました。Dサミットは、行政が主体となり、認知症に関わるデイサービスや薬局等の様々な団体を含めて実施している、町田市の認知症の普及啓発イベントです。定員を超える応募があり、追加上映の要望もたくさんいただきましたので、二回目の上映会の開催に至りました。

民間団体・地域の協力者・行政が密接に連携して活動を展開

上映会開催に向けてどのように準備をされましたか?

実行委員会のメンバーであるDフレンズ町田という団体を通じて当事者の方々へ協力要請をかけました。Dフレンズ町田は、普段は認知症当事者やご家族のための相談事業等を行っている団体です。
また前回の「Dサミット」ではDフレンズ町田が行政と一体となってワークショップの企画運営を主導していたため、その時のメンバーにも協力を要請しました。民間団体・地域の協力者・行政が密接に連携して活動を展開しているところが、町田の凄いところだと思います。

告知は、高齢者支援センターで知ったという方が多かったです。ついで、口コミ、薬局、地元紙、回覧などがありました。

上映会を開催してみた感想を教えてください。

今回は主人公のモデルになった丹野さんをお迎えし、認知症当事者3名の方にも登壇していただくトークショーを実施しました。当事者の生の声を聞くこともできましたので、認知症に関する不安を軽減し、勇気を与えることができたと思います。
今後の上映会について、事前アンケートで「小学生や高校生・大学生にもっと見てほしい」というご意見をいただいたこともあり、若い世代にアプローチする方法を考えています。今回は薬局で実習をしていた大学生が鑑賞に来てくれたこともあり、まだ実現できるかわかりませんが、市内の薬科大学等でも上映会を開催できればと思っています。

                              

また申し込みの受付体制について、Googleフォーム、FAX申込に加えて専用電話窓口も設けました。しかし「申込が確定したかどうかがわからず不安だった」という声があったので、無料または安価で、高齢者でも使いやすい受付システムを見つけたいと思っています。

上映会の開催を通じて、今後の活動に繋がった等のエピソードがあれば、教えてください。

「つるかわDシネマ」という新たな企画が生まれました。『ピア』や『ケアニン』、認知症のドキュメンタリー等の映画を定期的に上映し、参加者との交流会を行う企画です。今回のホールよりも少し会場規模の小さい、公民館等で行うかもしれません。映画は、今まで関わりのなかった方が足を運んでくれるきっかけになります。今後も色んな層の人たちにアプローチしていきたいです。

認知症に不安を抱いている当事者やご家族に、勇気と希望を与えることができる

上映会の開催を検討している方にアドバイスがあれば教えてください。

認知症に不安を抱いている当事者やご家族に、勇気と希望を与えることができる機会になります。「オレンジ・ランプ」は映画館での上映回数が少なく見逃した方も多いので、地域で上映会をすることで「念願叶い、やっと見られてよかったです」と言ってもらえると思います。

地域でのご活動についてお伺いします。ご自身の経営する薬局で認知症カフェ(認知症の当事者やそのご家族が、地域の人や医療・介護に関わる人たちと交流し、情報共有ができるカフェ。町田市では「Dカフェ(認知症を意味するDementiaの頭文字)」と呼称)を開催されるようになった経緯はどのようなものでしょうか?

認知症に特化した薬局としてDカフェをやりたいと開局時から考えていました。『オレンジ・ランプ』の認知症当事者の本人会議の場面を見ながら「こんなカフェができたらいいな」と構想を練っていました。
町田ではスターバックス等、様々な場所でDカフェを開催しています。そうした居場所づくりの活動にも精力的に取り組んでいるDフレンズ町田の代表・松本礼子さんにサポートしてもらい、現在は月1回、第2木曜日の午後2時~3時半に、参加無料の「おれんじカフェ」を開いています。

カフェには当事者の方、ご家族の方だけではなく、地域の方も来ます。「ご近所の方が認知症ですが、どう声をかけたらいいでしょうか」というご相談もあります。色々な方がご相談に来られるカフェの体制を整えることで、「なんでも相談に来られる薬局」と思っていただきたい、という想いがあります。

お薬の飲み忘れや重複服薬などを防ぐうえで、地域の薬剤師の方の役割は大きいと思います。認知症のケアに関わる意義について、日々どんなことを感じていらっしゃいますか。

服薬管理の役割もありますが、それに加えて、健康状態の確認や見守りを担うこともあります。たとえば処方が月1回だとしても、ケアマネージャーから依頼を受けて毎週、認知症の方のお薬カレンダーに薬をセットしに行くこと等もあります。
薬剤師が認知症に関わる機会は多いと思いますので、認知症というテーマに関心を持ってくれる薬剤師の方や薬局が少しでも増えてくれればいいな、と思います。

インタビュー後、井上さんは高齢者支援センターと協力して町田での3回目の上映を実現。「誰もが安心して認知症になれるまち」という目標に向けて発信と活動を続ける井上さんのご活躍は、地域に暮らす一人一人が認知症に向き合うための、たくさんのヒントを与えてくれるものでした。

※上記インタビューは2024年5月に実施しました。
井上 俊(いのうえ しゅん):東京都町田市
大手調剤薬局勤務時代に東京都町田市に転勤となる。町田市の鶴川サナトリウム病院で実習を行った際、認知症高齢者の中に栄養状態が悪い方がいることを知り、在宅医療に関わるようになる。認知症の方に薬を届ける等、仕事での関わりが増えるにつれ、「認知症と栄養」というテーマで薬局を開業する夢を持つ。2019年、町田市金井で「おれんじ薬局」を開局。映画「ピア~まちをつなぐもの~」に登場する薬剤師の台詞の監修も行っている。